世界の現状
欧米の先進諸国において、補完代替医療の利用頻度は、近年急速に増加傾向にあります。これまでに報告されている世界各国の補完代替医療(伝統医療なども含む)の利用頻度を図3に示します。


また、対象をがん患者に限定した利用実態調査においても、がんの種類によって多少の利用頻度の違いはありますが、おおむね40〜60%のがん患者が、さまざまな補完代替医療を利用していることが明らかとなっています。
米国では、そのような現状をふまえ国家予算を投じて補完代替医療の情報収集・発信、科学的検証に積極的に取り組んでいます。当初年間200万ドル(約2億3千万円)の予算で始まった取り組みが、現在では年間約1億ドル(約115億円)以上の予算が、米国国立補完代替医療センター(NCCAM)(http://nccam.nih.gov/)に配分され、補完代替医療の科学的検証(おもに臨床試験)が行われています。また、2000年にはホワイトハウスに補完代替医療政策委員会が設置され、現在も活動中です。
英国においても、1983年、英国王室基金の援助を受けて、The ResearchCouncil for Complementary Medicine(RCCM:http://www.rccm.org.uk/)が設置されました。そして、補完代替医療に関する各種データベース作成ならび
に研究機関・研究者間のネットワーク構築などを行っています。1991年には、英国保健省が「開業医は補完代替医療の治療家を自分のクリニックで雇用してもよい。その費用は、国の保険でまかなう」という決断をくだしたことから積極的に補完代替医療が臨床現場で利用されています。さらにチャールズ皇太子の発案で、国家レベルでの補完代替医療の研究(5ヵ年計画)が進められています。
また、慈善団体Macmillan Cancer Relief(http://www.macmillan.org.uk/)はがん患者向けの補完代替医療ディレクトリー(要覧・指導書)「Directory of Complementary Therapy Services in UK Cancer Care」を無償で提供しています。そのディレクトリーの掲載内容は、がん治療において補完代替医療を行っている、施設・団体の紹介、実施されている内容や種類・その費用などについて詳細に記載されています。紹介されている施設およびサービス団体の数は、英国全域にわたって326にもおよびます。また各施設で実施・施行されている内訳をみてみると、アロマセラピー(83.4%)、マッサージ(76.4%)リフレクソロジー(71.4%)などとなっています(複数回答)。さらに75.5%の施設において、無料で各種の補完代替医療が提供されています。
ドイツは、主要先進国の中では最も補完代替医療が活用されています。ペインクリニックの臨床では、医師の約70%が鍼治療を実践しています。また、認知症改善に効果があるとされているイチョウ葉エキスは、医師の処方する医薬品として認可されているほか、ナチュロパーシー(自然療法)、ハーブ療法、ホメオパシーなどが積極的に利用されているなど、ドイツでは補完代替医療が国民だけでなく医療従事者にも浸透しています。さらに、医学生は補完代替医療の知識は必修となっていて医師国家試験にも出題されています。

日本の現状
わが国でも、国民の自己健康管理への関心、患者自身の治療選択における自己決定意識の高まりに加え、インターネットの普及による健康・医療情報へのアクセスが容易になったことから、実際の医療現場では補完代替医療の利用者が急速に増加していることが指摘されています。しかし、日本の取り組みは前述の米国、英国、ドイツに比べて遅れている感は否めません。 
そこで2001年に厚生労働省がん研究助成金による研究班が組織され、わが国における、がんの補完代替医療の利用実態調査が全国規模で行われました。その結果が2005年に学術論文として報告されましたので、その詳細を紹介します。
まず、がんの医療現場における利用頻度に関しては、がん患者の44.6%(1382/3100名)が、1種類以上利用していることが明らかとなりました。
つまり、がん患者の約2人に1人が補完代替医療を利用していることになります。また、患者の年齢や性別などによって、利用頻度が異なるかどうかを検討した結果を図4に示しています。この結果は欧米の調査報告と一致している点が多いことがわかりました。
しかし、欧米の調査報告と比べて今回のわが国の調査結果で特徴的な点として、健康食品・サプリメントの利用頻度が非常に高いということが明らかとなりました。(図5)
一方、欧米では、マッサージ・鍼灸などの利用頻度が高いことが知られています。
また、利用目的に関しても欧米の調査報告と比べて異なる点が明らかとなりました。今回のわが国の調査結果では、補完代替医療の利用目的として、がんに対する直接的な治療効果(がんの進行抑制や延命効果)を挙げる人が多くいました。(図6)
一方、欧米の報告では、おもな利用目的として、がんの進行に伴う痛みなどの症状緩和や心理的不安の軽減、通常のがん治療に伴う副作用(吐き気など)の症状緩和などが挙げられています。
さらに今回の調査では、半分以上の患者が、十分な情報を得ずに補完代替医療を利用していることも明らかとなりました。また、患者と医師の間に補完代替医療の利用に関して、十分なコミュニケーションが取られていない実態も浮き彫りとなりました。(図7)
これらのことから、わが国としても医療現場における補完代替医療の現時点での標準的な考え方を、広く皆さんに示すことが急務と思われます。
社会的背景
では、なぜ、がんの医療現場で補完代替医療が、ここまで広まってきたのでしょうか。米国では、国民医療費の高騰に伴い政府機関や保険会社が、慢性病(がんや糖尿病・脳卒中・心臓病など生活習慣病など)の予防や治療に対する効果を期待して、補完代替医療の研究が行われています。そして有効性や安全性が認められたものに関しては、健康保険の対象として考えられるようになりました。一つの原因だけでは発症しない慢性病などに対して生活習慣(ライフスタイル)など全体的・全人的にアプローチする補完代替医療のほうが、原因撲滅型・対症療法型の現代西洋医学より、患者にとっても国家財政にとっても、より効果があるのではないかという考え方が背景としてあります。
そして、実は意外なことにわが国は、従前から漢方薬の保険適用が認められ、鍼灸などの東洋医学も一部が健康保険で認められています。つまり、わが国は、実は補完代替医療については寛大であり文化的にも民族的にも受け入れやすい社会的素地を持っているといえます。
しかしながら医学的根拠という点では、ほとんどの補完代替医療は検証されていないというのが現状です。補完代替医療領域における、医学的根拠の現状と問題点に関しては、資料編5ページから詳しく解説しています。

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