診療のご案内

スポーツ整形外科 スポーツ整形外科

 スポーツ整形外科研究室は、スポーツ傷害(外傷と障害)・膝関節外科・肩関節外科の診療を担当しています。部活動選手やトップアスリートのみならず、スポーツ愛好家の膝・肩関節痛の診療を行っています。また、同様に各年齢の膝関節痛(変形性膝関節症、半月板損傷など)、肩関節痛(腱板損傷、インピンジメント症候群など)の診療も行っています。

 (1)前十字靭帯損傷
 (2)スポーツ障害
 (3)変形性膝関節症
 人工膝関節置換術   高位脛骨骨切り術   単顆置換型人工膝関節置換術   疼痛対策
 (4)肩関節痛
 腱板損傷   肩インピンジメント症候群   石灰沈着性腱炎   反復性肩関節脱臼   投球肩障害 

(1)前十字靭帯損傷

 膝関節は人体中最大の関節で、歩く・立つ・座るなどの日常生活上の動作に加えて、ランニング・ダッシュ・ジャンプ・ターン・ステップなどスポーツ活動全般に渡って非常に重要な役割を果たしています。膝関節を構成する骨には大腿骨、脛骨、膝蓋骨の3つがありますが、その構造上、関節の機能を十分に発揮するためには様々な靭帯・半月板などの軟骨・筋肉・腱が正常に働く必要があります。
 若年者の膝関節外傷として多いのは半月板損傷と靱帯損傷ですが、中でも膝前十字靱帯(以下ACL)はスポーツによって受傷しやすい靭帯です(図1)。そのメカニズムとしては、大きく2つ存在します。スポーツ中のターンやジャンプの着地などの動作時に膝がガクッとねじって生じる非接触型の損傷と、タックルなどの予期せぬ外力で膝をねじって生じる接触型の損傷があります。スポーツ活動中に膝を捻って膝関節に血液がたまった場合は、約85%の確率でACL損傷が生じていると言われています。
 ACLは膝関節内に存在する靭帯で、その主な機能は脛骨が大腿骨に対して前方へ引き出される動きを抑制することです。そのためACLが損傷されると膝関節に不安定性を生じることになります。このことは活動性の低い高齢者ではさほど問題にならないのですが、若年者特にスポーツ選手においては大きな問題となります。

図1 膝関節の解剖
▲図1 膝関節の解剖
図2 受傷メカニズム
▲図2 受傷メカニズム

前十字靱帯が損傷されることによる問題は大きく次の2つに分けられます。

(1) 膝関節の不安定性によるスポーツレベルの低下
 不安定な膝関節では膝くずれがおきたり、膝に水がたまりやすくなり、プレーのレベルが制限されます。
 
(2) 不安定性によっておこる二次損傷
 前十字靱帯の機能が失われると膝関節の他の構成物、特に半月板損傷を合併しやすくなります。(図3)半月板が損傷されると膝の引っかかり感が出現したり、この結果関節表面の軟骨が傷んだりして、膝関節全体が傷んでいきます。半月板損傷は傷んだ部分を切除したり、縫合したりして治療可能ですが、関節表面の軟骨は一旦損傷されると元通りになることはありません。
図3 内側半月板バケツ柄損傷
▲図3 内側半月板バケツ柄損傷

診断
 診断は問診、身体所見でACL損傷を疑い、MRI所見(図4)と総合的に判断します。
 
手術の適応
 一般的に、スポーツで受傷しスポーツへの復帰を希望される方、また労作業などの活動で膝関節の不安定性が残存する方、若年者が交通外傷などで受傷した場合に、ACL再建術が勧められています。
 
<手術的治療>
   一旦断裂したACLはギプス固定や縫合では治癒するのが困難です。このためACL損傷に対しては、靭帯再建をすることが必要となります。靭帯再建とは役に立たなくなった本来のACLに代わり、新しいACLを作る手術です。再建材料としては、患者さん本人の比較的必要のない腱を使用する方法、人工靭帯を利用する方法などがあります。しかし、感染症やアレルギー反応を起こさないということから、患者さん本人の腱を利用するのが現在のところ一般的です。当科では膝を曲げる筋肉のうち、半腱様筋腱と薄筋腱を用いた手術を行っています。この筋腱は、比較的採取しやすく、また採取しても機能的に影響が少ないという利点があります。
 しかし合併症として、再建靭帯の再断裂、反対側のACL損傷や術後の半月板損傷がいずれも約6%ずつ起こるといわれています。
図4 MRI所見…ACL損傷
▲図4 MRI所見…ACL損傷

<保存的治療>
   日常生活動作で膝関節の不安定性がない方(中高年)やスポーツ選手でも手術を希望しない方には保存療法を行います。保存的治療によるスポーツ復帰では、専用のサポーターをつけ、膝周囲の筋力を強化し、リハビリで正しいジャンプの着地や、フェイント動作を習得して競技に復帰します。しかし膝関節不安定性による筋力低下や二次的損傷を起こす可能性があることを十分に理解し、競技復帰に望みます。

術後リハビリテーション
術後のリハビリは、リハビリスタッフと協力し、綿密なプログラムを作成します。個人や競技によって差はありますが、約半年から1年での復帰を目指していきます。

当科での研究
ACL損傷危険因子としては、関節弛緩性、解剖学的因子、グラウンドやフロアーの状態などがあります。当科での最新の調査では、家族内発生が10%存在することがわかりました。このような危険因子を持ったスポーツ選手への予防トレーニングも現在行っているところです。
海外では予防プログラムが完成しており、実際に成果を上げています。当院でも予防プログラムを作成し、実際のトレーニングメニューを作成しました。



(2)スポーツ障害

 スポーツ障害は、スポーツで特定の動作を繰り返し反復して行うことにより、身体の特定の部位に機械的ストレスが反復して作用し、その結果その部位の組織の疲労破綻が生じることを言います。つまり、スポーツによる使い過ぎによって生じる痛みのことをいいます。また、スポーツによる痛みは使いすぎに加え,筋力バランス,フォーム,コンディショニングほかさまざまな原因が重なってもたらされます。そのためスポーツ種目の特異性を考慮し,それぞれの障害にアプローチする必要があります。特定の練習やフォームなどにより痛みなどの障害が発生した場合、その方法や量、質的問題あるいは身体の姿勢バランスや靴、装具、道具などの影響を見直すことで改善が得られることが多くみられます。また、練習や試合の合間の休憩時間や終了後すぐのアイシングや筋や腱の柔軟性を回復するストレッチ、障害部位を保護するために周囲を支える筋肉や靱帯の耐久性を高める運動を行っていくことも大切です。そのほか、薬物療法(飲み薬、はり薬、注射など)が功を奏することもあります。それでも改善が得られない場合は手術による治療が必要となります。その適応について、われわれは十分に吟味し、国内・海外の学会などで得られた最新情報も参考にしながら手術時期、手術法を選択します。出来るだけ早く競技やレクリエーションに復帰できるよう、負担を少なくするために関節鏡を用いた手術も多く行っています。
 ペンよりも細い関節鏡(図1)や先の細い特殊な器具(図2)を使って、関節の中をモニターに映しながら(図3)手術操作を行います。

図1
▲図1
図2
▲図2
図3
▲図3

 膝関節鏡の様子です(図4)。膝のクッションである半月板に断裂を認めます(図5)。

図4
▲図4
図5
▲図5

 足関節の裏(図6,7)や肘関節(図8,9)にある余分な骨を小さな傷で取り除くにも関節鏡が役に立ちます。

図6
▲図6
図7
▲図7

図8
▲図8
図9
▲図9

 また、スポーツ障害のなかで野球肘に代表されるような、関節の骨軟骨片(軟骨と一部の骨)が元にあった場所から“離断(はがれてしまう)”してしまう障害があります。これを離断性骨軟骨炎といいます。軟骨は関節を形成しており,ここに何らかの機械的刺激,微小外傷,血行障害が生じることにより骨と軟骨の“離断”が生じるといわれています。主に軟骨の豊富な学童に好発します。骨片がはがれる前のごく初期であれば、スポーツ活動などの中止・経過観察ではがれかけた骨片がもう一度生着するのを待てばよいのですが,骨片がはがれ始めて不安定になっている場合には,何らかの手術による処置が必要なことがあります。そんな時は、はがれた骨軟骨を再接着するか,取り除いて軟骨面を再建することが必要になります。

1. 軟骨下骨の環境の改善
 離断している骨軟骨片が比較的安定している場合は、ドリルや先端がとがったピック(図10)で軟骨下骨を穿通して血流の改善を図り,軟骨(線維軟骨)の再生を促すこともあります
図10
▲図10

2. 骨片を再接合、軟骨面の再建
 保存療法が無効な例や,骨軟骨片が不安定である場合やはがれってしまった場合は(図11)、当院では,軟骨つきの骨(骨軟骨柱:図12)を膝の体重がかからないところから採取し,骨軟骨柱を釘として使用して分離した骨軟骨片を固定しています(図13)。また,骨軟骨片が完全に遊離していて再接合できないような状態のときは,この骨軟骨柱を骨軟骨欠損部にタイルのように敷きつめることで欠損部を健常な軟骨(硝子軟骨)で置換えています(図14)。あたかもモザイク画を作るようなので,“モザイク形成術”と呼ばれています。

図11
▲図11
図12
▲図12

図13
▲図13
図14
▲図14



(3)変形性膝関節症

 変形性膝関節症とは、膝関節のクッションである軟骨のすり減りや筋力の低下が要因となって、膝の関節に炎症が起きたり、関節が変形したりして痛みが生じる病気です。中高年の方に多い病気ですが、とりわけ女性に多く、50歳以降になるにつれて患者さんの数が増えていきます。症状が進行し、関節の隙間が消失して強い痛みを伴うような末期の変形性膝関節症の場合は、手術的加療が必要になります。 手術は個々の患者さんに最適な治療法を考えます。

 左は正常膝、左は末期膝関節症



人工膝関節置換術

 人工膝関節置換術(図1、2)は、除痛効果に優れ、解剖の不均衡も是正できるため、患者さんの満足度が高いのが利点です。当科では,より正常解剖に近い状態への人工関節の設置、緩みの生じにくい安定した関節の再建を常に意識して種々の工夫を凝らしています。具体的には、術前計画においてコンピューターシュミレーションを導入し(図3)、CTデータをベースに3次元的に横断面、冠状面、矢状面の画像を見ながら的確なコンポーネントサイズの選択・コンポーネントの設置位置の決定を行っております。そのシュミレーション通りの手術ができるように、変形が著しい患者さんには、術中にコンピューターナビゲーションシステムを使用することもあります。

図1
▲図1
図2
▲図2

図3
▲図3



高位脛骨骨切り術

 40歳から65歳くらいまでの膝関節痛の方が対象になります。膝関節内側の軟骨だけが障害されている人(変形の初期)が良い適応で、人工関節手術を行うには早い人(若年者)、スポーツ(ウオーキング、ジョギングなど)を継続したい人などに適した手術で、自分の関節を温存したままで痛みを軽減することができる手術です。
 具体的には左図のように脛骨を骨切りすることで、荷重線を外側に移動させます。このことで障害されていない外側の関節を使って荷重することができ、痛みが軽減します。また、同時に関節鏡を用いて、膝関節内の処置(半月板切除など)を行うことでさらに痛みが軽減します。



単顆置換型人工膝関節置換術

 膝関節内側の軟骨のみが障害されている方が対象になります。全置換型人工膝関節置換術と比較し、手術の侵襲が小さく、高齢者に適した手術です。膝関節内側を人工関節にすることで痛みが軽減します。




疼痛対策

 術後、痛みの少ない状態で元気にリハビリを行って頂くために、私たちは膝関節の手術の際に疼痛対策を行っております。以前は、硬膜外神経ブロック(腰部より神経ブロックを行い、硬膜内に細いチューブを留置する)を行っておりましたが、より合併症が少ない安全で確実な方法として、昨年より大腿神経ブロックを行っております(図5)。実際に、大腿神経ブロックを行うようになってから、術後に鎮痛剤を使用する回数が減少しました。さらに、術前から消炎鎮痛剤などの内服を行うことや、手術中に局所に麻酔薬を注射することも同時におこなっており、従来よりも術後の痛みは軽減しています。
 術後の痛みが少なければリハビリを積極的に行うことができ、術後成績の向上にもつながります。


(4)肩関節痛


腱板損傷

 肩が痛いと言っても原因は色々あります。肩関節は身体の深部にあるため、痛みの部位がはっきりしない事も多く、また、レントゲンで異常がない事がほとんどです。そのため、正確な診断は難しく、五十肩と診断されて保存的に加療されているケースも多いです。
 五十肩と思っていても、中には腱板断裂(肩甲骨と上腕骨をつないでいる腱板という板状の腱が切れてしまった病態)が隠れていることがあります。(図)
 症状は夜間痛、腕を上げたり下げたりする時に痛みや引っかかりを訴えることが多いです。また、腕があげづらい、力が入らないのも特徴です。
 治療は腱板が切れていても時間経過とともに症状が軽快することもあり、注射や理学療法などの保存療法をまず行います。
 しかし、活動性の高い人、受傷後3か月以上症状が続いている場合には手術を要します。
 手術は小さく開いて断裂した腱板を骨に縫い付ける方法を主に行っています。(mini-open腱板縫合術)
 また、最近では症例に応じて肩関節に関節鏡というカメラをいれて断裂部を縫合する場合もあります。入院期間は1週間程度で、術後1か月程度、外転枕という着脱可能な装具をつけます。退院後はリハビリを行い、個人差はありますが、職場復帰は軽いものであれば3カ月、重労働であれば6カ月ぐらいです。

腱板断裂のMRI画像
腱板断裂のMRI画像

mini-open腱板縫合術
mini-open腱板縫合術



肩インピンジメント症候群

 インピンジメントは衝突を意味し、インピンジメント症候群は腱板が加齢による骨の変形でできた骨の出っ張りに衝突して炎症を起こす疾患です。したがって、骨の出っ張りがある限り炎症を起こす根源は絶たれず、リハビリだけでは治りません。治療は、関節の中に細いカメラ(関節鏡)を入れ、この出っ張りを実際に見ながら削る手術をします。

骨棘
▲骨棘
肩インピンジメント症候群
▲肩インピンジメント症候群



石灰沈着性腱炎

 石灰沈着性腱板炎はその原因は不明ですが、カルシウム分が腱板に沈着して炎症を起こす疾患です。中高齢者が誘因なく肩に激痛を生じた場合には本疾患を疑う必要があります。
 石灰が沈着しているのでレントゲンを撮れば簡単に診断できます。通常は薬、注射など保存的加療で軽減しますが、中には残存した石灰が引っかかり、症状が軽減しないかたもいます。数か月、保存的加療を行い症状が軽減しない場合には、鏡視下に石灰を摘出する手術を行っています。

石灰沈着
▲石灰沈着
鏡視下摘出術
▲鏡視下摘出術



反復性肩関節脱臼

 反復性肩関節脱臼とはスポーツ中の外傷などを契機として肩関節の脱臼が起こり、それが癖になって軽微な外傷でも肩が外れるようになった状態をいいます。ひどくなると日常生活や寝返りだけでも外れてしまうことがあります。これは肩関節内にある靱帯(関節上腕靱帯)が関節窩という受け皿から剥がれたり伸びたりすることにより、靱帯として正常に機能しなくなったために起こります。よって、完治を望むのであれば、剥がれてしまった靱帯をもとの位置に戻す必要があります。治療法は従来より直視下法(メスで大きく切開して行う手術)を行ってきました。しかし、最近では関節鏡視下手術の成績が上がってきており、また関節鏡手術は傷が小さいいこと(5mm程度の傷が数か所)、関節内の病態をより詳細に把握できるなどのメリットがあり、関節鏡手術も行っています。
 関節鏡視手術では正常な構造物を損傷せずに、関節窩の骨に、スーチャーアンカーと呼ばれる糸つきの小さなビスを打ち込んで、その糸で剥がれた靱帯を骨に固定します。
 個人差はありますが、術後1〜2カ月で日常生活には不自由がなくなり、3カ月で軽いスポーツ、6カ月で大抵のスポーツ復帰が可能となります。

肩関節脱臼
▲肩関節脱臼
鏡視下バンカート修復術
▲鏡視下バンカート修復術



投球肩障害

 MRI検査を行い肩関節の病態の把握を行いますが、投球障害肩は肩関節だけが問題ではなく、体幹、肘関節、フォームなどが原因のことが多いのが特徴です。よって、リハビリでフォームのチェックや、全身のバランス、筋力を評価して、原因となっている部分を一つずつ矯正していきます。


Copyright© Department of Orthopaedic Surgery, Kanazawa University Hospital All right reserved.