One-Point Lecture on Nuclear Cardiology

VESTによる無症候性心筋虚血の評価

無症候性心筋虚血とは?

無症候性心筋虚血(silent ischemia)という用語は1978年にLindsey, Cohnにより初めて提唱されたものである。運動負荷201Tl心筋シンチグラフィにて胸痛がなく虚血の所見を呈するものや運動負荷心プールシンチグラフィでの無痛性の左室駆出分画低下はまさしくsilent ischemiaである。虚血の最も高度なものである心筋梗塞においても、Framingham studyにて25%が無症候性に起こっていることが報告されている。Cohn は無症候性心筋虚血を以下の3タイプに分類している。すなわち症状のまったく無い群(Type 1)、心筋梗塞後の無症候性心筋虚血(Type 2)、狭心症に伴なう無症候性心筋虚血(Type 3)である。Type 1の患者については症状がないために偶然に見つかることが多く、50-60歳代では正常被検者の数%で加齢と共に増加するとみられている。Type 2,3の患者においては種々の検査法によってsilent ischemiaの評価が行なわれている。心筋虚血は酸素需要の増加により生じるものと、冠動脈血流の低下が主因となるものがあると考えられている。Deanfieldらは狭心症患者においてホルター心電図でのST低下の87%が無症候であり、しかもそのときの心拍数が運動負荷時の虚血発生時に比べ有意に低いことを示し、酸素需要の増加が虚血の主因となる場合と、冠動脈血流の低下が主因となる場合があることを示している。冠動脈血流低下は冠動脈のvascular toneのダイナミックな変化により生ずるもので、その検出にはホルター心電図に加えVESTによる連続的な心機能モニターが威力を発揮するものと期待される。

VEST(携帯型心機能モニター)とは?

無症候性心筋虚血の非侵襲的な検査法として一般的に用いられているものにホルター心電図、運動負荷心電図、201Tl心筋血流イメージング,心プールシンチグラフィがあげられる。このうち心プールシンチグラフィは心筋虚血により喚起された局所壁運動の異常を評価するものである。最低でも90-120秒のデータ収集時間が必要なため、安静時と最大運動負荷時の壁運動を比較することで負荷時心筋虚血の評価を間接的に行なっている。しかしながらこの方法では連続的な心機能変化は測定困難であり、まして日常生活状態での一過性の心筋虚血による心機能低下の検出は不可能である。しかし携帯型持続心機能モニター(VEST)の出現により持続的な心機能評価が可能となった。現在使用されているものには検出器にNaIを用いたものと Cadmium telluride (CdTe)を用いたものの2種類がある。NaIを用いたものは高感度平行孔コリメータを装着し、CdTeを用いたものでは筒型コリメータを装着している。

VESTによるsilent ischemiaの評価

無症候性心筋虚血の発生機序は不明な点が多いが、虚血の程度、持続時間による疼痛発生刺激の差、疼痛神経刺激伝達の問題、疼痛感受性の差、などの複雑な要因が絡み合っているものと考えられる。左心機能と胸痛出現過程をVESTでみると、常にEFの低下が症状の出現に0-120秒先行していることが報告されており胸痛出現までは無症候虚血状態であることがわかる。さらに狭心症患者の病院内生活状態において有痛性と無痛性の一過性EF低下を比較すると、78%(47/60)が無痛性のエピソードであり、有痛性では心機能低下が大きく、かつその持続時間が長いことが報告されている。従って狭心症においては狭心痛の出現に虚血の程度が一つの因子として関与していると考えられる。 またST変化は無痛性EF低下の83%で伴なわず、虚血の検出については、心電図よりもVESTによるほうが感度が高い可能性が示唆される。

201Tl心筋シンチグラフィにおける運動負荷時無症候性心筋虚血に関する検討でも心電図変化は30-40%程度の感度しかなく注意が必要と考えられる。無痛性心筋虚血への虚血程度の関与に関しては必ずしも一致した報告ではない。すなわち201Tlでの再分布範囲のみを比較したものでは無痛性虚血で虚血部が小さいが有意なものではない。しかし集積低下の程度を考慮に入れた解析を行なうと無痛性の虚血では有痛性に比べ有意に虚血が軽度であったとの報告がなされている。心筋梗塞後の血栓溶解療法を施行した患者を対象とし、VESTで一過性EF低下を検討した報告では、12人で19回のEF低下が有り、ST低下は胸痛があった1回のみで認めている。平均19月の経過観察中にこのうち8人で心事故が起こり、EF低下のなかった21人では3例のみで心事故の発生を認め、梗塞後のsilent ischemiaは予後不良の兆候であることが示された。VESTは冠動脈バイパス術前後の運動負荷時心機能変化の評価に優れているが、バイパス後のsilent ischemiaの評価にも有用であると報告されている。バイパスの閉塞、非バイパス部、不十分なバイパス血流によって起こる虚血のための無症候性心機能低下は容易に評価でき、心電図ではVESTで捉らえられた1/3の症例で虚血性変化を示したのみであり、また運動許容度の評価にもすぐれていた。血管拡張術後の再狭窄に関しての報告でも、術前に有痛性であっても再狭窄時に無痛性のことがあり、負荷心電図はその検出に対し201Tlより有意に劣っていたとされている。従って再灌流後のsilent ischemiaの評価に対しても負荷心電図に加え、VEST,Tlによる評価が望まれる。

まとめ

VESTは日常生活状態ならびに各種負荷試験における心機能変化を容易に捉らえることができ無症候性心筋虚血の評価にもすぐれた手段である。

Key word:

silent ischemia, VEST, coronary artery disease


お問い合わせは E-mail: Taki taki@med.kanazawa-u.ac.jp

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