急性期脳梗塞の画像診断 for 研修医
急性期脳梗塞の画像診断において、最も重要なことは、t-PA静注療法の適応を迅速に判断することである。t-PA静注療法の適応は発症3時間以内の虚血性脳血管障害に限られており、脳出血の除外、出血性梗塞の危険性が高い症例の除外、が画像診断において重要である。
【CT】
* Early CT sign
1988年にTomuraらが提唱した所見である。その後、MRI拡散強調像が登場したため、あまり重要視されていなかったが、t-PA療法の拡がりと共に再認識されてきた。
Early CT signは病理学的には、細胞傷害性浮腫に伴う脳実質のX線吸収のわずかな低下と軽度の腫脹を表すものである。おおむね、発症後2~3時間で陽性となるとされている。Early CT signが認められる部分は、原則として不可逆性変化と考える。
Early CT signは、脳実質の所見、脳血管の所見の2種類に分けられる。
脳実質の所見
レンズ核の構造の輪郭が不明瞭に、一部は欠損することがある。発症1~2時間程度で高率に認められるようになる。レンズ核線条体動脈は側副血行の無い終末領域を灌流しているため、この領域は虚血に対して極めて脆弱であり、そのため本所見が最初に出現する。
島皮質のCT値が低下、insular ribbonと呼ばれる部分(前障、外包、最外包)が不明瞭となる。この部分は他の部分と比して、頭蓋骨のartifactが少なく観察しやすい場所である。
皮質(灰白質)のCT値が低下し、白質との濃度差が小さくなり、皮質と髄質の境界が不明瞭になる。発症から2~3時間程度で認められることが多い。本所見を広範囲に認める時は、予後不良のことが多い。
虚血領域の脳溝が脳の腫脹によって不明瞭化する。皮質CT値の低下を伴い、発症後3時間以降に出現することが多い。
・ 皮質吸収値低下を伴わない脳浮腫
上記、脳溝の消失の中で、皮質CT値が低下していないものを指す。組織障害の程度は軽く、乏血領域やペナンンブラ領域に相当すると考えられている。
脳血管の所見
・ 血栓化した中大脳動脈水平部が高吸収に認められる、中大脳動脈高吸収所見(hyperdense MCA sign),
Sylvius裂内の動脈枝の断面が高吸収に認められるMCA dot signが挙げられる。本所見は、発症後数日以内に消失する一過性の現象であり、脳実質のearly CT signsより先行して認められる。発生頻度は22-55%、中大脳動脈閉塞の27-69%に出現し、感度は低いが特異度は高い(85-100%)。中大脳動脈の石灰化との区別を慎重に行う必要がある。
【CTにおける梗塞巣の経時的変化】
1.超急性期
発症6時間以内には塞栓性梗塞でearly CT signsを呈する
A)Hyperdense MCA sign:発症直後より
B)レンズ核の不明瞭化:発症後1〜2時間
C)島皮質・皮髄境界の不明瞭化、淡い低吸収域:発症後2〜3時間
D)脳溝の狭小化:発症後3時間以降
発症6時間〜24時間後より明らかな低吸収域として描出。造影効果は認められない。
2.72時間前後
急性期では最も梗塞巣が良好に描出される。脳浮腫もピークとなる。
3.亜急性期
2-4週間後〜2ヶ月後。
Fogging Effectによって灰白質(皮質と基底核)を中心に梗塞巣が不明瞭になる。造影CTにてFogging Effectと一致する造影効果を認める。
* Fogging Effect
脳梗塞の亜急性期(発症1週間後〜1ヶ月後程度)に、灰白質を中心にdensityの上昇を認め、梗塞巣が見えにくく、もしくは、全く見えなくなる現象を指す。灰白質を中心に血管増生や細胞浸潤が起こるためと言われている。造影剤による亜急性期の造影効果は、Fogging Effectの分布と時期が一致する。
4.慢性期
1〜2ヶ月以上。
梗塞巣は境界明瞭な低吸収域として描出される。造影効果は認めない。
組織壊死が進み、軟化吸収、瘢痕化、嚢胞形成が起こる。梗塞周囲の脳溝開大と脳室拡大が起こる。
5.長期経過
梗塞側の大脳脚・橋底部の萎縮:Waller変性
対側小脳の萎縮:Crossed cerebellar diaschisis
【MRI】
拡散強調MRI
拡散強調MRIは、現在、汎用されている画像検査の中で最も早期に梗塞巣を捉えることができる。
梗塞巣では細胞性浮腫が起こり、その結果、梗塞巣の拡散係数(apparent diffusion coefficient:ADC)が低下し、拡散強調MRIにて高信号を呈する。しかし、拡散強調像は組織T2値の影響を受ける(T2 shine-through)ため、拡散強調像の高信号が真のADC低下によるものかの判断には、拡散係数画像(ADC map)を作成し、低信号を確認する。
FLAIR
FLAIRにおいて、血流が低下した脳表クモ膜下腔の動脈枝が高信号に描出される所見(intraarterial signal)は閉塞血管の範囲を知る上で重要である。これは、フローボイドの低下した血管が相対的に高輝度にみえるためである。
【参考文献】
1. 橋本洋一郎/平野照之, 脳梗塞:急性期の画像診断 CT, 神経内科, 58(Suppl.3), 147-158, 2003
2. 百島祐貴, 脳梗塞:急性期の画像診断 MRI, 神経内科, 58(Suppl.3), 159-165, 2003
3. 百島祐貴, 急性期脳卒中の画像診断, Pro. Med. , 27:269-272, 2007
4. 平野照之, 急性期脳梗塞の頭部単純CT・拡散強調画像, 分子脳血管病, vol.7, no.1, 78-85, 2008
5. 平野透, 頭部疾患における画像所見と撮影法(CT編), 日本放射線技術学会雑誌, 第61巻, 第3号, 319-334, 2005
【症例】
60歳代男性
主訴:左半身の脱力。発症4時間20分後にCT施行、その28分後にMRI施行。
(頭部CT):発症より約4時間20分経過
(頭部MRI)発症より約4時間50分経過
右内包後脚にdiffusionで高信号を認め、ADC mapで低信号を認める。右内包後脚の新鮮梗塞巣と判断した。
(2008.10.19 臨床研修医 A.A記) |